少女は真っ赤になってうつむいた。気まずい沈黙が流れた。
 しばらくすると、彼女はそっと、牛の背中に手をやり、セムを見ないまま呟いた。

「あのね…… ちょっと前に新聞で話題になった、人間農場から逃げ出した男の子、いるでしょ? あの子が、 セム君の家にいるんじゃないかって噂が流れてて……」

「知ってる」

セムは答えた。

「今日だって、それを探りに来たんだろ」

 少女ははっと顔を上げ、眼鏡の奥からセムを見つめた。

「……知ってたんだ……」

セムは黙って、牛を撫でている。少女はいっそう顔を赤くすると、早口に喋り始めた。

「知ってたならいいけど…… 先輩たち、その子を捕まえて、警察に連れて行くとか言ってたから…… 多分冗談だと思うけど、私、 心配になって、セム君に教えようと思って……」

 少女の言葉を聞きながら、セムは、無言でこちらを見た。
 崩れかけた石の小屋の隙間越しに、レインは目が合ったような気がした。

「私…… 私、もし本当にセム君の家にその子がいるんだとしたら、どんな事情があるかは知らないけど、すごいなって思って。
それって、何て言ったらいいのか分からないけど…… すごく、優しいことだと、思う。
も、もし何か、私に協力出来ることがあるなら……」

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