パトカーがミドガルドオルムの町の入り口に着いた時、テクラは目の前の光景に、思わずため息をついた。

 地中で輝くオルム硝石が、縦に長く層になった町並みを、下から照らし出している。虹色の光の上に、影絵のように建物が建つ。

 まるで、御伽噺の挿絵のようだ。
 言葉も出せないままテクラが感慨に浸っていると、パトカーの窓が叩かれた。はっと我に返って制帽を目深にし、 扉を開けると、同じ制服を着た警官がこちらに話しかけてきた。

「遅かったじゃないか。あ、どうした、フロントに傷がついてるぞ」

「途中でガードレールをこすってしまって……」

「あ〜あ、やっちまったな」

「町の様子はどうだ」

助手席から出ながら、トマが尋ねる。入れ替わりに乗り込みながら、警官は肩をすくめた。

「異常無しだ。何の事件も起こっていない代わりに、犯人が捕まりそうな予感もない」

 日中の封鎖活動で疲労した警官たちを乗せ、引き返していくパトカーの音を聞きながら、テクラは町を見上げた。
 この妖精の国のような町の何処かに、妖精のように綺麗なイオキ様がいる。彼を連れて帰れば、キリエもきっと笑顔になる。
 急に、わくわく、と言ってもいいくらいの高揚感に襲われ、テクラは瞳を虹色に輝かせ、一歩前進した。

 と、その肩を、不意にトマが強く掴んだ。

「何だあれは?」

 え? と振り向く間もなく、テクラも気がついた。

 町の中に、ぽつ、ぽつ、と、オルム硝石の輝きとは違う、橙色の粒が生まていれる。 通りに生まれた炎の塊はあっという間に増え、うねり始めた。
 町の上方に向かって、まるで獲物を追う蛇のように。

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