そのことを確認すると、イオキは崩れるように床にへたれこみ、それから長いこと、ベッドの脇に蹲っていた。

 一つきりの窓から差し込む薄黄色の透明な光が、少しずつ移動し、長くなっていった。

 テッソが戻ってくる気配は、なかった。否、そもそも彼が家の中にいることすら、疑問だった。それほど、家の中は静まり返っていた。
 が、やがて、教室の扉が開く音がした。

「テッソ先生? 大丈夫かい?」

 威勢の良い女の声に続き、ドタドタと、階段を上がってくる音がする。

「孫が、先生の様子が変だったって言うんで、様子を見に来たよ。まさか、ドニに何かあったんじゃないだろうね」

 床が揺れるように軋み、台所の扉が音を立てて開いた。 大股に入ってきたのは、初老の女だった。彼女はイオキを見ると、はっとしたように足を止めたが、すぐに表情を引き締め、こちらへやってきた。 そしてベッドを覗き込み、死体の顔の上に手をかざしてから、イオキを見下ろした。

「先生は何処行ったんだい」

 イオキは力なく首を振った。女は鼻から息を吐き出すと、家の中を探し始めた。

 ドニの命、そしてテッソの退場と共に、己の生気も吸い取られたようになって、イオキはただぼんやりと、 気持ちの悪い汗が、皮膚を伝っていくのを感じていた。女が向かいの物置に入っていく音を聞いても、心ここに在らずだった。

 女が物置に入って数拍後、悲鳴が上がった。

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