そのままトマは、グレオが大きく手を振る路地裏の入り口まで、テクラを引っ張っていった。

 その路地裏は、広場の熱気とは裏腹に、 まるでそこに存在しないかのように静まり返っていた。
 人一人ようやく通れる程の狭い道に一歩入った途端、辺りは暗くなり、喧騒は遠くなる。 夜本来の闇と、地面から発する柔らかな虹色の光、穏やかな涼感に包まれたテクラは、やっとほっとすると同時に、己の考え無しな行動を恥じ、 しょんぼり肩を落とした。

「さあさあ、ぐずぐずしてる暇はないぞ」

今にも噛みつきそうなヒヨを笑顔で牽制すると、グレオは広場の方を見やった。テクラも一緒に見た。 松明を持った人々はすぐ目の前にいるのに、まるで、ショーウィンドウ一枚隔て、閉店した静かな店の中から、外を眺めているようだ。 グレオが、喫茶店と土産物屋の間の、広場から町の上層へ続く階段を指差した。

「上の方へ行くにはあの道を使うしかないようだが、見ての通り、おしくらまんじゅう状態だ」

そう言うと、彼は両脇を挟む建物の屋根を見上げた。

「我々は、ちとショートカットさせてもらおう」

 四人は頷くや否や、地面を蹴った。それぞれ、一番手近な壁の凹凸、窓枠などを利用し、思い思いの動作で、屋根へ上る。 真っ先に屋根に飛び上がったテクラの足元で、トタンが破れそうな音を立てた。

 屋根のすぐ上が、一つ上の層の、路地だった。そこも、行列のルートを外れていた。そこからまたさらに家の屋根に上り、時には 屋根から屋根へ伝い、レッド・ペッパーは行列よりずっと速い速度で、町の上層部へ上っていった。

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