足元のオルム晶石に照らされたその顔を見て、テクラの呼吸が、止まった。足裏にあるはずの、屋根の感覚が消えた。

 そのまま、ふわりと雲から落ちるように屋根の端を踏み外しそうになり、テクラはあわやと言うところで、両手をついた。 心臓が、破裂しそうな勢いで脈打っている。しかし、屋根から落ちそうになったからでは、ない。


「……嘘だ」


 やっぱり。やっぱり、死んでなどいなかったのだ。

 生きていたのだ、人買いザネリは。


 テクラの脳内を、一陣の砂嵐のように記憶と感情が駆ける。
 玉虫色の部屋で、彼が死んだ可能性を示唆された瞬間。線路下での戦闘、 列車に乗り、笑いながら去っていく彼を見送るしかなかった時。そして、彼の生業を手伝っていた、子供時代まで。

 ザネリはいつもの、薄手のステンカラーコートを羽織った、何処にでもいるサラリーマンのような風貌だった。 重機の脇に立ち上がり、コートのポケットに両手を入れ、じっと社の方を見つめていた。

 そして、テクラが放心状態から立ち直れないうちに、社へ向け、ゆっくりと歩き出した。

 予期せぬ事態に、テクラは放心から、パニックに陥った。
 どうしよう? どうすべきなのか? ザネリより先に、イオキ様を保護しなければ。

 仲間の顔が、頭をよぎる。

 しかしその顔に止められる前に、ほとんど本能的に、テクラは四つん這いのまま、腰に隠したナイフをザネリに向かって投げていた。

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