扉の内側に入ると、そこは、本殿の裏側に当たる、がらんとした広い板の間だった。明かりはなかったが、 手元が見える程に十分な七色の光が満ちていた。
 それは、本殿の中央に据えられた、人間の頭より大きなオルムランプから発せられていた。 水を満たしたガラス玉の中に、掌ほどもある紅玉、青玉、黄玉、紫水晶、緑柱石、金剛石、黒曜石が入っていて、ガラス玉のゆっくりとした 回転に合わせ、ゆらゆらと本殿内部の色彩を変化させているのだ。

 深海の楽園に迷い込んだかのようなその光景に、束の間、何もかもを忘れ、イオキは巨大なオルムランプを見つめた。
 が、すぐに、外から飛び込んできた怒鳴り声で、現実に引き戻された。

「巫女様、扉を開けてくだせえ! 何だってあんな奴を匿うのですか!」

 怒鳴り声はすぐ近くから聞こえてくる。もう、この扉一枚隔てすぐ向こうにいるのだ。イオキの心臓は縮み上がった。

「あんな奴、とはどんな奴だね」

老婆が静かに尋ねる。

「知らないんですかい。夏から続いていたあの墓荒らし、犯人はあいつだったんでさあ」

「墓を暴いただけじゃない。死体を喰っていたんですよ。玩具屋の爺さんもテッソ先生の息子も、あいつに喰われたんだ」

違う、違う。扉の内側で、イオキは夢中で首を振る。

「証拠は?」

「勿論ありますとも。とにかく、そこをどいてください。神聖な社に人喰いの鬼子を入れるなんて」

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