* 目覚めた時、テクラは病室にいた。 初めは、ひどく意識がぼんやりしていて、何も分からなかった。が、次第に、口に呼吸器がついていること、腕に点滴の針が刺さっている こと、などが分かってきた。まだ牛乳のように意識は白濁していたが、テクラは無意識に呼吸器を外し、体を起こした。 白くて清潔な、個人病室だった。テクラはぼんやりと視線を窓辺へ移した。半透明のカーテンの隙間から、青い空と、大きな樹が見える。 何十本という木を縒り合わせたような、途方もなく巨大な樹―― そう、王の樹たるオーツだ。ワルハラ第二都市、通称クレーター・ルーム内に酸素を供給すべく人工的に造り出された、樹。 と言うことは、ここは、ワルハラなのか? 心臓が、大きく鳴った。テクラは宙を凝視し、一気に覚醒した頭の中で、記憶を手繰った。 アンダー・トレイン、ユーラク、エイゴン、虹色に輝くミドガルドオルムの町、それからそれから…… 「テクラ! 起きたのか!」 グレオの大声がし、テクラははっと振り向いた。 病室の入り口から、グレオを先頭に、トマ、ヒヨが入ってくる。グレオの熊のような体が枕元に立ちはだかった、と思うと、 テクラは強い力で抱きしめられた。 「良かった良かった。心配したんだぞ」 「医者を呼んでくる」 トマは一言そう言って、入ってきたばかりの扉から出て行く。グレオの腕の中から頭を出し、テクラは叫んだ。 「人買いザネリは? イオキ様は、どうなったんですか?」 -------------------------------------------------- |