『生きてる!』

 群集の中から、臓腑も凍るような悲鳴が上がった。

『焼けたまま、歩いてる!』

 その一声を皮切りに、イオキたちを囲んだ半円の最前列から、わっと人垣は崩れ出した。

 あっという間にイオキから燃え移った炎が、社全体に広がっていく。 青い顔をして後列の人間を押しのけ、押し倒して、人々は逃げ惑う。

 その中心で真っ赤に燃え盛りながら、ゆっくりと、だが確かな足取りで、 イオキは歩いていた。悲鳴の一つも上げず、苦悶の身もだえ一つなく、まっすぐに。
 その表情は、炎の向こうになって、分からない。衣服はあっという間に燃え落ち、体も真っ黒に焦げていく。


 その身から放たれる、熱気! その身から放たれる、火の粉! 近くの人間の肌を焼き、照らし、引きずり込まんとする苦痛の腕!

 こんな人間が、この世にいるものか。こんな、炭となりながらも、なおまっすぐに意思ある足取りで歩ける人間など。


 炎が照らす阿鼻叫喚の絵図の中で、グレオもザネリもユタも、しばらくの間は呆然として、言葉も出なかった。 が、真っ先にユタが狼狽の声を上げ、イオキに駆け寄った。 反射的に追おうとしたザネリを、我に返ったグレオが、撃った。

 人買いザネリともあろう者が、 その時ばかりは、隙だらけだった。グレオが続けざまに撃った二発の銃弾は、ザネリの左足に命中し、ザネリは苦悶の声と共に 地面に転がった。

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