トマは首を振った。

 そんな…… と呻くテクラに、弁解するようにグレオが言った。

「お前やヒヨを助けるのに必死で、とてもゆっくり捜索する余裕がなかったんだ。一応落下地点と思しき場所を当たってみたが、 駄目だった。住民の話を聞いて捜索したエイゴン警察も、発見出来なかったらしい」

 視界が、ぼやけ始める。意識が、白い空間に向かって、渦を巻く。

「なに、相手は子供とは言え、グールだ。グールの肉体の頑健さは我々の想像を遥かに超えると言うし、きっと自力で どこかに……」

「どうして僕を放っといて、イオキ様を探さなかったんですか!」

 ガシャン、と点滴の支柱が揺れた。

 テクラの目の縁は、赤くなっていた。驚いて口をつぐむグレオに、青白い顔で、テクラは怒鳴った。

「僕のことなんか放っといて探していれば、見つけられたかも知れないのに! そうすれば、今頃……!」

 それ以上、続けられなかった。眩暈がして、呼吸が出来なくなった。テクラはシーツを掴み、体を丸めるようにうなだれると、 唇を噛み締めた。

 鮮烈な痛みと共に、次第に呼吸は戻り、同時に、混乱した意識が少しだけ明瞭になる。

 テクラは大きく息を吐き出すと、うなだれたまま呟いた。

「イオキ様を、探さないと」

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