同時に看護師が、テクラの入院着の前を開け、脇の下から腰まで一面を覆う、血の滲む包帯を外した。

 その下に現れたのは、見るだけで鳥肌が立つような、太い紫色の線だった。幼児が画く線路の絵のように、縫い跡がジグザグと、 上から下まで続いている。線の周りは赤黒く変色し、ところどころ開いて、血が出ている。

「調子はどうですか、雨臼(アマウス)・テクラさん」

 と医師が言った。

「あなたは今回の戦闘で、内臓の幾つかに致命的な損傷を負いました。出来る限りの処置を施しましたが、このままでは、三ヶ月持ちません。 時間はかかりますが、損傷した内蔵を使骸と入れ替えていく手術が必要になります」

 しかしテクラの耳に、医師の言葉はほとんど入っていなかった。
 テクラはほとんど半狂乱に叫んだ。

「まだ失敗してません! 次こそ、次こそ絶対……!」

「うるせーよ!」

 と、周囲が止める間もなく、物凄い勢いで高く上がったヒヨの左足が、テクラの足を踏みつけた。テクラは、痛みよりもショックで呆然とし、 白いシャツワンピースの裾から太腿も露に伸びた、ヒヨの素足を見つめていた。

「どうしてあそこであたしたちを待たなかった? 一人でザネリに向かっていった? 全員でかかれば、あいつを殺れたかも知れないのに!」

左手に握られたペットボトルが潰れ、中身が零れる。全身が怒りに震える中、弛緩したように動かないヒヨの右腕を、透明な液体が蝕んでいく。

 ヒヨの、真っ黒の瞳が、灰色の空を裂かんばかりに鳴く烏の如く、テクラを睨みつける。

「てめえが私情に駆られて、ザネリに向かっていったせいだろうが! それなのに『放っとけ』だ? ふざけんな! 足ばっかり引っ張り やがって!
 ああ、本当に、お前なんか放っとけば良かった! もういい、お前なんか、レッドペッパーやめちまえ!」

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