ワトムという人物が周囲に与える影響力は、絶大だった。
 彼との、出来の悪い喜劇のような邂逅から数日間、ロミとタキオは何となくぎくしゃくした雰囲気で過ごしていた。

 どちらが何をやらかしたわけでもない。それは例えるなら、公園で楽しく過ごしていた土曜の昼下がり、下手な歌を 歌いながら空の帽子を虚しく差し出し続ける盲目の物乞いに、しつこく付き纏われた後の気まずさに似ていた。笑い話にすれば済むのに何故かそれが出来ない、 そういう後味の悪さだった。

 刀使いのサングラスの男―― もとい、ワトムの息子であるオズマが側にいたものだから、余計だった。

 いつの間にか、やたらと馴れ馴れしい態度で側にいる、エイト・フィールド暗殺専門組織『蠍』の男。
 ロミは彼が嫌いだった。 何と言っても相手は、ついこの間までこちらの命を狙っていた、敵なのだ。タキオがワトムに「もう手出しをするな」と釘を刺したとは言え、 その約束も果たして守られるかどうか。

 それに何より、私たちは、彼の上司と仲間を大勢殺した。

 彼と共にいることで、その事実は、より重く深く、のしかかってくる。

「エイゴンからワルハラに戻るのに、奴が手を貸してくれるって言うからさ」

 ロミが浮かない顔をしていると、タキオは頭を掻いてそう言った。

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