レトーからエイゴンへは、私たちだけで上手く密入国出来たじゃない! とロミが唇を尖らせると、タキオは説明した。 「レトーとエイゴンは海で繋がった隣国だからな。 ただ、エイゴンからワルハラへ戻るとなると、ユーラクかアンブルを通過しての大仕事だ。 世界唯一の越境組織であるエイト・フィールドが、各地に張り巡らせた移動のパイプ。そいつを 利用させてもらえれば、大いに助かる」 納得。 でも、とロミは声を潜めた。 「何であの人、こんな私たちに親切にしてくれるの? 絶対、裏があると思わない?」 タキオは黙って肩をすくめた。 と、二人の向かいに座っていた男が、立ち上がった。 「そろそろ降りますよー」 と、列車の網棚から荷物を降ろし始めたのは、あの、ピンクの兎の着ぐるみの中身だ。田舎の洟垂れ小僧がそのまま大きくなったような、 暗殺組織の人間とはとても思えない、小柄な坊主頭の若者である。 ロミは窓の外を見た。 氷柱を逆さにしたような形の、峻険な岩山が遠くに一瞬見えたかと思うと、列車は駅の中へ入っていった。『六十一市(シナイ山麓)』 と駅名を書いた看板の隣に、『ミドガルドオルムへおこしの方はこちら』と書いてあるのが見える。 -------------------------------------------------- |