「でも、この絵の山は、虹色に光ってるわ」

「シナイ山の山頂付近にはオルム晶石と言う特殊な鉱物が埋まっていて、夜になると発光するんです。とても綺麗ですよ」

 本当に、こんな幻想的な夜景が? ロミは瞳に焼きつけるようにじっと絵を見つめてから、他の絵に視線を移した。どれもこれも、 シナイ山を静謐なタッチで画いた作品だったが、一枚だけ、はっきりと雰囲気の違う絵があった。

 夜空を背景に、真紅の椿を咲かせたように、真っ赤に燃える山。
 ロミの視線に気づいた画家は、ああ、と声を上げた。

「それは、この前山頂の町で起きた、大きな火事を画いたんです」

 画家が画きかけの絵の前に座り、光の加減をためつすがめつしながら話すのを、ロミは黙って聞いていた。

「大きな火事で、出火元の社は焼け落ちてしまったそうです。火事だけでなく、多くの不幸な出来事が、この時期いっぺんに起こりました…… 山頂の町では墓場荒らしと殺人があったそうですし、 麓の街でも殺人未遂があって…… 僕の姉が麓で病院を経営しているのですが、一時期は患者のベッドが足りなかったと言っていました。 いつもは平和で、静かな街なんですけれどもね」

 それで何となく街が沈んで見えたのかしら、とロミが言うと、そうかも知れません、と画家は笑った。

 漆黒の絵の具を筆に取り、キャンバスに塗り始めた画家に向かって、ロミは尋ねた。

「……あなたはどうしてエイト・フィールドに協力してるの? 私たちと一緒に来たサングラスの男、世界中で犯罪を犯している 組織の一味だって、知ってるんでしょう?」

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