ほとんど完成していた絵の上に、黒い色を勢いよく塗りたくりながら、画家は答えた。

「彼らの全てが、一概に悪とは言えませんよ」

 ロミの目の前で、美しい虹色の山は見る見る内に塗り潰され、無へと姿を変えていく。

「飛行機や何かを提供する代わりに、僕は自分の絵を国外に売ってもらっています。僕の姉は、国内では手に入らない薬を売ってもらったりしています。 エイゴンの医学では治せない難病の患者を、ワルハラの病院へこっそり運んでもらったこともあるそうです。勿論、法外な謝礼金と引き換えですが……」

 力強い筆遣いとは対照的に、画家の唇は淡々と動いた。

「シナイ山での墓荒らしだって、エイト・フィールドの犯罪だって、被害者にとっては犯人は悪で、消えてほしい存在かも知れませんが、 僕たち無関係な人間からすれば、どうでもよいことですよ。
 完全に悪しき物、完璧にこの世に不必要な物など、何処に存在します? それを悪だと思う者、不必要だと思う者がいる。ただそれだけの ことじゃありませんか」

 それ以上は、とても黙っていられなかった。

 思わず、ロミは大声を上げた。

「それじゃあなたは、グールも悪とは言い切れないって言うの?」

 画家は手を止め、ロミを見ると、抽象画のような奇妙な微笑みを浮かべた。

「あなたは、そう思っているんですか?」

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