ワトムは小さな目で憎々しげに、タキオを睨みつけた。

「いいか。てめえは俺の大事な部下のみならず、船や商品まで沈めたんだぞ。てめえのせいで、こっちの商売上がったりだ」

 荒々しい動作でデッキチェアに腹這いになると、みっしり肉がついた背中に、別の美女がマッサージオイルを垂らす。花と果物の香りが 広がり、マッサージが始まるとしばらくの間、ワトムは顔を伏せていた。
 が、やがて、唐突に顔を上げた。

「びびったか?」

 正直にタキオが頷くと、ルビーを埋め込んだ金歯の間から、にやーっと笑いが広がった。

「そうかそうか。でもな、実は、私は君を怒ったりしとらんのだ。本当だよ。むしろ、感心しとる」

機嫌良さげに立てた指を振りながら、ワトムは言った。

「身一つでここまでしてみせるとは、素晴らしい根性だ。最近の奴らときたら、テロリストでさえ、腑抜けばかりだ。うちの部下もな」

 チラリと、ワトムの視線が、タキオの後ろに控えるオズマに向けられる。オズマが無反応でいると、ワトムは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、 満面の笑顔と立てた指の先を、タキオへ向けた。

「どうだ、私の部下にならんか」

 即座に、タキオは答えた。

「断る」

 そして、次に起こるであろう事態に備え、身構えた。

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