案の定、ワトムは爆発した。

「何でだよお!」

 ワトムは飛び起きると、マッサージしていた女の髪を引っ掴み、まるでグラスを割るように、物凄い力で彼女をプールサイドに叩きつけた。

 召使たちが慌てふためいて逃げ惑う。周囲を取り巻いていた黒服たちの緊張感が、一気に高まる。
 背後でオズマがため息をつくのを聞きながら、タキオは震えているロミの前に立ち、怒り狂うワトムを見つめた。 全く、不思議の国に迷い込み、理不尽なドタバタ劇を見せつけられている気分だった。こんなにも馬鹿馬鹿しく、恐ろしい気持ちになったことが、 これまであっただろうか。

 ワトムは逃げ惑う召使たちを捕まえようとし、彼らがプールに飛び込むと、今度は手近な部下の手から銃を奪い取り、 乱射した。何人かの黒服から流れ出た血が、プールサイドを赤く染めた。

 その銃口がこちらを向いた時、オズマがタキオの背を押した。

「行け」

 タキオはロミをオズマの方へ押しやると、だん! と一足でワトムとの距離を詰めた。銃弾が何発か当たったが、勿論、痛くも痒くもない。 喚くワトムの手から銃をもぎとり、タキオはその醜い耳に囁いた。

「お前の秘密を知ってるぞ」

 ああん? とワトムは血走った目でタキオを睨みつけた。
 タキオはさらに声をひそめた。

「あんた、女装趣味があるんだってな。スーツの下はいつも、女物の下着だそうじゃないか。今もその海水パンツの下に、 女物のビキニをつけてるんじゃないか?」

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