途端に、両手を股間にやり、ワトムは飛び上がった。着地したその口は、あんぐり開いている。鼠のように小さな目が極限まで見開かれ、 赤を通り越して紫色になっていた顔色は、一瞬で真っ白になった。

「な、なんでそのことを……」

「もうしないって、亡くなった女房とした約束は、どうしたんだ?」

 おお、とカモメのような悲鳴が上がった。
 硬いプールサイドの床に膝をつき、ワトムは見るも哀れな格好で、タキオの腕に縋りついた。

「頼む、女房には言わないでくれ!」

 幾分和ぎ始める雰囲気の中、後方でロミとオズマのひそひそ話が聞こえる。

「死んだんじゃないの?」

「ボケてるんだよ」

 タキオはさり気なく、育ちすぎた赤ん坊のようなワトムの腕を外すと、相手を見下ろし、物々しい口調で言った。

「分かった。女房には言わないでおいてやる。その代わり、もう二度と俺たちには関わるな。こっちも出来る限り、 お前らには手を出さないようにするから」

 相手が一も二もなく頷くのを見届けると、タキオは踵を返し、ロミの元へ戻った。今や警戒もへったくれもなく、 銃を下ろしたままぼんやりしている黒服たちの中を、出口に向かって、ロミと共に歩き出す。

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