一瞬、間の抜けた間があり、ノキヤは慌てた様子で、運転席の若者に詰め寄った。

「ダビド! 遅かったじゃないか、この抜け作!」

「森ん中を突っ切ってきたんだ。これが限界さな」

 ダビドは鷹揚に答えると、ネモやオリザに気がつき、「あれ、ボスもここにいたんですか」と呑気に笑った。 しかしその笑顔も、レインと狼の死体、そしてその中に横たわっている老人の死体を見つけると、消えた。

 眉間に皺を寄せて黙るダビドに、ネモは平然と説明した。

「ここまで乗せてもらった林檎農家だ。狼に襲われて荷馬車が横転した時、地面に投げ出されて死んだ」

 その説明を相手が信じなかったことは、顔を見れば一目瞭然だった。しかしダビドは一言「そうですか」と言うと、運転席から降りてきて、 後部座席のドアを開けた。ネモに続いてノキヤが乗り込み、レインはオリザに腕をむんずと掴まれ、否応なしに車に押し込められた。

 その間ダビドは死体の間をうろついて老人の目蓋を閉じ、馬の様子を見ていたが、振り向いて言った。

「オリザさん、こいつを楽にしてやってくれませんか」

 オリザはダビドの顔を見ると、黙って車を降り、彼の元へ行った。そして馬の前に立つと、右腕の使骸で、馬の額を撃ち抜いた。 短い発砲音と共に、苦しそうにもがいていた馬は、どさりと四肢を投げ出した。ダビドがしゃがんでその目蓋を閉じ、厳粛な表情で呟いた。

「あんがとな」

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