その全てを、レインは車の中から、じっと眺めていた。

 己の内側ががらんどうになって、そこへ心臓ばかりがドクンドクンと、鼓動を響かせているような気がした。 一緒に、熱く湿った息が、蒸気のように渦巻いていた。それが、いつから続いているのか――
 老人が殺されるのを見た時からか、狼の口が間近に迫った時からか、 馬車が横転した時からか――
 自分自身にもよく分からなかった。

 やがて車は発進した。ネモは再び本を読み始め、ノキヤは窓にかかっているカーテンを引いて、 外が見えないようにした。

 彼らの表情や声、車の振動、冷えた空気など、全てが濃い霧を隔てたように遠い。 霧の中で、狼の死体や、老人が宙を舞う様子、馬を殺した銃声などが、ぐるぐると渦巻く。 死ぬ瞬間、彼らは一体どんな気持ちだったのだろう――?

「ほい到着」

 やがてダビドの声が聞こえ、レインはのろのろと車を降りた。

 車を降りた途端、視界が白くなった。本物の薄い霧が、辺りに立ち込めていた。そして霧の向こうに、巨大な黒い壁が見えた。 霧の中で輪郭を失い、どこまでも雲のように広がって見える、壁が。

 それはアンブル第四都市、通称『フォギイ・ブルー』をぐるりと囲む、巨大な城壁だった。

 城壁内部には部屋が設けられており、そこで持ち物のチェックを受けないと、街の中に入れない仕組みだった。

「面倒臭いけど、霧に紛れてナイフやら何やら、物騒な物持ち込まれたら構わんもんなあ」

部屋に入ったダビドは気楽に兵士たちと言葉を交わし、他の四人も、難なくチェックを通過した。

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