河のように横たわる灰色の大地は、明らかに人の手で整地されたようなのに、建物や人間の気配は見事にない。 何もない。

 どことなくあの世の入り口を思わせる景色を、レインがじっと眺めていると、頭上で、男が軽く鼻をすするのが聞こえた。
 見上げると、男は鼻の頭を赤くして、まっすぐに荒地を見つめていた。
 その横顔は、無表情だった。しかし、決してぼんやりしているわけではない。固く結ばれた口元や、目尻の引き攣った辺りに、 緊張感のようなものがある。眉間に刻まれた皺は、ますます深い。それら全てが混ざり合い、ひどく剣呑な雰囲気を纏っている。

 不穏な沈黙の後、男は軍手を嵌めた指を、まっすぐ荒地の向こうへ指した。

「お前が前を歩け」

 その声は、まるで苦虫を潰したようだ。
 指の先には、こちら側と同じような森が広がっている。

「あの森へ、向かうんだ」

 レインは躊躇した。何故ここへ来ていきなり、自分が前を歩かなくてはいけないのか、理由が聞きたかった。

 しかし目の前の男を見ると、この男は決して自分の問いに答えるまい、という気がした。

 男の瞳は鋼を思わせる灰色で、タキオの瞳に似ていた。しかし、タキオの瞳が研ぎ澄まされた刃のように澄んでいたのに対し、 この男の瞳は、暗い。中に隠した光を悟らせない、重たい原石のように。

 無言の圧力とも言うべき不気味な力に押されるようにして、レインは仕方なく、森から足を踏み出した。

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