灰色の荒地を歩いていく間、レインは一度も振り返らなかった。それでも、後ろの男が少し距離を置き、 一歩もはみ出さない正確さで自分の歩いた道をなぞるのが、分かった。

 寒い。
 どんどん底が深くなっていくような、不思議な寒さだ。清冽で、峻烈で、端麗な寒さだ。

 己の吐いた白い息の中に、大きなチリのようなものが落ちてくるのを、レインは見た。天を仰ぐと、灰色の空からチラホラと、 白いチリが後から後から降ってくる。鼻に触れると、ひんやり冷たい。そして、儚く消えていく。

 初めて経験する雪の中を、汚れた衣服に裸足で、レインは歩いていった。
 そして長い長い時間の後、ようやく向かいの森へ辿り着いた。

「……良くやった」

 男が背後でそう呟いたがが、レインには意味が分からなかった。あまりに寒くて、それどころではなかった。 ガタガタと骨から震えていると、男はようやく気がついたようにリュックを下ろし、 中から毛布と大きな靴下、それにもう一枚チョコレートを取り出して、レインにくれた。 かじかむ手で靴下を履き、毛布を巻き、歯の根をガチガチ言わせてチョコレートを食べながら、レインは辺りを見回した。

 大人が二人がかりでも抱けないような太さの樹が、隙間無く生えていた原生林に比べると、今いる森の木々は細く、 間隔もまばらで、おまけに葉が全部落ちている。かなり奥まで、丸見えだ。

 と、その奥の方から、人影が現れた。レインは幽霊を見たような表情で、思わずチョコレートの欠片を地面にこぼした。

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