「しかし国境監視兵の代わりに、何万個という地雷が埋まっている! 年間数百人の密入国者が、ここで死んでいるんだぞ」

 女は声を荒げると、荒野を指差した。その先を、レインは目で追った。 そして、初めて気がついた。歩いている時は、寒さと雪に気を取られていたし、歩く先にたまたま落ちていなかったのだ。

 雪がうっすら積もり始めた地面の至るところに点々と、白茶けた頭蓋骨が転がっていることに。

 男は何も言わなかった。女は激しく憤った表情で男を睨みつけていたが、やがて息を吐き出し、低い声で尋ねた。

「……この少年は?」

「この夏ワルハラを騒がせた、『人間農場』を脱走した元『家畜』だ」

 男はリュックを背負うと、立ち上がった。

「食べられる為だけに、クローン培養液で生まれ、育てられた、人造生命体。器だけは我々と同じだが、同等の魂や精神は、持ち合わせていないのだ」

「だから地雷で死んでも問題ないと?」

「その通り」

 男はオリザを見て、はっきりと言った。

「初めは犬を使うつもりだったが、森の中で逃げられてしまった。それでたまたま出会ったこいつを、代わりにした。何か問題があるか?  俺は、神が用意してくれたのだと思ったが」

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