それに比べて、私はどうだろう。ルツがレインを必死に守ろうとしていた時、私は何をしていただろう。

 ルツに笑い返すことなどとても出来ず、ロミは目を伏せたまま蜜柑を受け取った。薄い半透明の皮に包まれた橙色の実は、 掌の中で力なく転がった。

 ルツの家を出発し帰ってくるまで、およそ半年間の記憶が、古い日記帳を開くように、次から次へと襲ってくる。 戦闘訓練、エナの誕生日パーティ、年老いた洗濯屋、ユニコーン号の沈没、ニルノとの別れ、エイゴンの賞金換金所、ワトムと恐竜、 そしてイオキとの邂逅。

 タキオとずっと一緒にいて、それだけで嬉しかったはずなのに、いくら記憶の池をかき回しても、喜びは重く沈殿し、浮かんでこない。 私は一体何をした? 何をしてきた――?


 ――私は、タキオが賞金首を殺すのを、側で眺めていただけだ。


「とりあえず明日、第一都市であんたの口座に送金しがてら、情報を集めてくる」

 首の後ろを掻きながら、タキオは言った。

「金は一千万程余分にあるから、先にロミの使鎧を造り直してやってくれ。体が大きくなって、そろそろ今のじゃ限界だろう」

 分かったわ、とルツは頷いた。ロミも反論しなかった。使鎧の造り替えが必要な時期に来ていることは、彼女も承知していた。
 ちらりとイオキが眠っている部屋の方へ目をやり、ルツが尋ねた。

「イオキはどうするの?」

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