タキオの五千万に対してルツが用意した使鎧は、彼がこれまで装着してきたどの使鎧とも比べ物にならない、 否、むしろ次元が違うと言っても過言ではない代物だった。

 素材となる合金の調合から、使鎧の設計、製作技術まで、素人のタキオが見ても、他の使鎧とは根本的に物が違うと分かる。
 動きの緻密さ、滑らかさ。細部まで狂いのないコントロール。まさに生身と同等の感覚。そして驚異的な硬度と、関節、筋肉、骨、神経など、 随所に微妙な調整を施すことによって生まれる、グールと比較しても遜色ない身体能力。

 しかも、予め彼の体の寸法だけは取ってあったが、それだけのデータで全身分の使鎧を、約半年で完成させてしまっていたのだ。 五千万を渡した翌日に「もう出来ているわよ」と使鎧を見せられた時の、驚きと言ったら。

「あんたと比べてしまうと、他の使鎧職人は皆、お粗末としか言いようが無いな」

「あら、失礼なことを言わないで頂戴。先人たちが磨いてきた技術があったからこそ、今、この私の使鎧があるのよ」

 真剣な表情でタキオの使鎧を点検していたルツは、ふと主婦の顔に戻り、笑った。

「それにね、五千万もふんだくっといて、適当な物は造れないわよ。 五千万あれば、マリサを大学まで行かせてあげられるわ。やれやれ」

 ルツの目元に、年齢相応の笑い皺が寄る。

 半年前、レインを彼女の元に残していく時、施設に預けるようまとまった額を渡したことを、タキオは思い出した。 ロミが彼女を、本物の母親のように慕っていること。あのイオキすら、彼女の側では表情が和らぐこと。

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