ルツからジャンパーを受け取り、タキオはタンクトップの上にそれを着た。 鈍色の腕が袖に通ったのを見ると、ルツは「寒い、寒い」とぼやきながら、梯子を伝って屋上から降りた。 一足早く飛び降りたタキオは、紳士的に、彼女に手を貸した。

 廃墟と化した街が静かに崩壊していく音を聞きながら、二人は何もない平野を、歩いていった。
 本当に、見渡す限り冬枯れした草しかない、平野だった。そして、寒かった。規則的に白い息を吐きながら、 地平線まで包む薄水色の空の下を歩いていると、耳の奥がキンと痛くなった。 やがて何の前触れもなく、枕木も朽ちかけた線路が、足元に現れた。ルツは、すっかり錆びたレールの上に足を乗せた。 後ろからゆっくりついていきながら、タキオは言った。

「こんな場所が、ワルハラにあるんだな」

「兵どもが夢の跡、よ」

 慎重にレールの上を歩くルツは、こちらに背を向けたまま、答える。

「この辺りはね、ミトが指導した都市計画の、第一次期に開発された場所よ。私が生まれるずっと前。 けれど、急激な都市開発の歪みが、深刻な公害病となって現れ、さっきの街みたいになってしまった」

「完全無欠の領主様も、色々失敗してきたわけだ」

「そりゃそうでしょ。その使鎧と同じ。その形になるまで、どれだけ試行錯誤を繰り返したと思っているの」

 ルツは呟いた。

「試行錯誤の果てに、成功が約束されているなら良いけれど、現実にはその逆もある。決して報われないと分かっているのに、 挑戦せざるを得ないことだって」

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