また、お父さん。

 ロミはこっそり、イオキの横顔を盗み見た。イオキは微笑んでこそいなかったが、頬にはうっすら赤みが差し、 瞳は優しい思い出で潤んでいるように見えた。

 彼に間違いなく幸福な記憶があることに、ロミは安堵した。幸福な記憶は、凍える体を温めてくれる。
 しかし同時に、どうしても気になることがあった。 答えは半ば予想出来、だから尋ねるべきではない、と分かっていたが、とうとう好奇心に負けてしまった。

「その時はお母さんも一緒だった?」

 イオキの反応は、ロミが予想していたものとは微妙に違った。夢見るような雰囲気は失われ、代わりに現れたのは、 ひどく淡白な口調だった。

「お母さんは、いない」

 やあ、とそこへ、他の体験者の様子を見に行っていた指導員が、戻ってきた。イオキの手元を一目見て、指導員は破顔した。

「とても上手に出来たね。これはシダの化石だ」

 ロミがイオキの手元に目をやると、いつの間にか、そこにはすっかり化石の全貌が現れていた。指の先程のシダの葉が、 押し花のように岩の表面に浮かび上がっている。

 イオキは別段嬉しそうな顔もせず、指導員が化石を保存用のケースに移すのを、眺めていた。
 綿を詰めた小さなケースに化石を入れながら、指導員は言った。

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