こちらも全身の使鎧を取り替えたばかりだと言うのに、カレーパンを掴むタキオの手には、細かな傷が無数に光っていた。 使鎧を生身以上にコントロールする為、彼女のいない場所で、相当激しいリハビリをこなしているのだ。

 首から下が全て機械だなんて一体どんな気分かしら、と、ふとロミは思った。
 機械の代わりに失われた彼の本物の血肉は、何処にあるのだろう? 繋がるべき両親や、太古の生物たちは何処に? 

 彼がそれを、人喰鬼を殲滅するという意志の下、自ら脱ぎ捨ててきたのか。それとも何らかの理由で失われたからこそ、 人喰鬼殲滅という意志が生まれたのか。生物という形を半ば失ってまでこの道を進もうとする、その強烈な意志は、何に拠るのか。

 しかしすぐにその疑問は、舌下に消えた。
 ロミは笑顔を作ると、頭のリボンを直し、「ただいま!」と台所に入っていった。

 「おう」とこちらを見たタキオの目が、素早く新品のマントを一瞥した後、頭のリボンに止まる。

「それ、付けていったのか?」

カレーパンを口に入れたまま、タキオは呆れたように言った。

「普段付けて歩くようなモンじゃないだろ」

「お出かけの時に付けないで、いつ付けるの?」

気づいてくれたことを喜びながら、ロミは答えた。

「せっかくタキオがくれたんだもん。付けなくちゃ」

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