そう言うミトの表情は、さして落胆した風でもなかった。

 キリエは黙っていた。
 そもそもレインの行方を追うことを提案したのは、彼女であった。

『人間農場から逃げた家畜のことを、覚えていらっしゃいますか』

 キリエがそう切り出したとき、ミトは少しばかり、意外な顔をしたものだった。

『イオキ様の行方がまるで分からないようでしたら、そちらの行方を追ってみるのも、一つの手かも知れません。 イオキ様が彼と一緒に居る可能性も、無いとは言い切れませんから』

 無感情な声で提言しながら、キリエはもう半年以上も前になる、『人間農場』の鉄条網が破られた日の光景を、思い出していた。

 己自身が銃を向けた、あの、貧相な、家畜のなり損ない。それを庇おうとした、イオキの獣のような形相。 あんな表情を、あんな暴力を、イオキが彼女に見せたことなど、それまで一度も無かった。

 間違いなく、今でもイオキの心の中には、彼の影が深く刺さっている。

『……分かった』

 キリエの思惑の全てを理解したわけではなかっただろうが、ミトはやつれた顔で、彼女の意見を受け入れた。

 ユーラクでの激務で溜まった疲れを癒す暇もなく、イオキの行方を捜すものの、手がかりはようとして見つかっていなかった。 恐らくは、キリエの言う「可能性」などほとんど信じていなかっただろうが、藁にも縋る思いだったのだろう。

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