女を助けようと、レインがこちらに向かって走ってくる。しかし、その行く手に、 銃弾が撃ち込まれる。

「動くな」

 レインの足元に銃弾を撃ち込んだのは、おぞましい色で斑になった身体に秘密警察の制服を纏った、若者だった。
 若者は扉口にまっすぐ立ち、拳銃を構えたまま、義務的な口調で告げた。

「君たちは死刑囚ではない。大人しくしていれば、いずれ釈放される。しかし今ここで逃亡を図れば、 逃亡犯として、即刻射殺されることになる」

 逃げろ、と女が再び呻く。

 その体に跨り首を絞めているのが、獣ではないことに、ミアンは気がついていた。全身をつぎはぎしたような、 縫い目だらけの人間だ。目と口は縫い目で塞がれ、よく見ればその顔は、別々の人間の顔を半分ずつ、 真ん中で繋ぎ合わせたようだ。
 そんな化け物に、女は殺されかけている。

 体が動かなかった。

 だって、ノキヤがいないのなら、これ以上、辛く苦しい思いをする必要が、どこにあるだろう。 もうどこにも光のない、出口もない暗闇を這い続ける意味が、どこにあるだろう?




 彼が生きていると、ただそれだけを己に言い聞かせ、暗闇を這ってきたのに。


 けれどもう、無理だ。




 ぼんやりとただ目を開いたまま動かないミアンの前で、女の喉が、ぼきりと音を立てた。

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