ぼきり、と嫌な音を立てて、首の骨が折れた。


 否、違う。折れたのは、相手の肋骨だ。私はまだ、生きている。


 霞む意識の中で残った力を振り絞り、相手の腹に膝を食い込ませたオリザは、相手の力が弱まった隙に、 夢中で横へ転がった。

 弱った体で激しく咳き込むと、こちらまで肋骨が折れそうになる。全身を襲う苦痛は、脳味噌に熱湯をぶちまけられたようだ。 しかしその苦痛こそが、生きている証。 そして、生きている間はまだ、生き続ける為に足掻くことが出来る。

 オリザはすぐさま、体を起こした。銃口を仕込んだ右腕の使鎧は、とうに肩からもぎ取られ、破壊されてしまっている。 正面から戦いを挑んでも、勝ち目はない。逃げなくては。

 しかし、逃げようとしたところで、彼女の動きは止まった。 その瞳は、たった今押しのけた敵の顔に、釘付けになっていた。

「お前は……」

 と言ったつもりだったが、声は掠れ、ほとんど無音だった。

 オリザの前で、敵は早くも身を起こしている。全身から悪臭を放ち、ほとんど四つん這いになって揺れる、人間よりも獣に近い姿。 その体は全身継ぎ合わせたように、縫い目だらけだ。
 そして、その顔は、二人分の顔が、真ん中で縫い合わさっている。

「……お前たち、は……」

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