ミアンは何も言わず、身動きもしなかった。 沈黙が、部屋に満ちた。 サイレンが回り、地揺れが続く。何処か遠くから、秘密警察官の怒鳴り声が聞こえてくる。 女が動いた。 と、その無様な足音を、乱暴に扉を開け放つ音が、遮った。 「行け!」 と、かかる号令、溢れてきた薬混じりの生臭い臭い、目にも留まらぬ速さで扉から飛び込んでくる、四足の獣。 それらを感知するのと同時に、ミアンは走ってきた女に突き飛ばされるようにして、床を転がった。 温かい血が、頬にかかる。ミアンを庇い、代わりに獣に激突された女の唇から、滴った血だ。そのまま獣は間髪入れず、 女に跨ると、両手で首を絞め上げた。 「がはっ!」 女は逃れようとするが、左腕一本しかない上に、拷問されてすっかり弱った身体だ。毛細血管が破れ、見る見る間に、 その目は真っ赤に充血していく。 「逃げろ!」 今にも砕け潰れそうな声で、女は叫んだ。 体を起こしたミアンは、焦点の合わない瞳で、もがき苦しむ女を見つめた。 -------------------------------------------------- |