「トリィ! 避けろ!」

 オリザが叫ぶと、トリィは反射的に、素早く横へ退いた。一拍遅れて、男が引き金を引いた。 銃弾はトリィの腕をかすめ、彼女に相対していた化け物に当たった。もはや目も口も鼻もなく、すっかりぐちゃぐちゃの顔になった化け物は、 それでもまだ倒れることなく、後ろへよろめいた。

 叫ぶのと同時に、オリザは走り出していた。折れた腕が、爪の剥がされた足先が、床を蹴る度悲鳴を上げるが、 怯まない。
 男の方も、発砲するや否や、起き上がっていた。制服は血と脳漿で汚れているが、まるで何事もなかったかのような表情で、 こちらに狙いをつけ、撃ってくる。

 トリィを助けたかった。或いは、瀕死の化け物を。

 しかし二人は、男の的がオリザに移ったと見るや否や、再びこちらに背を向け、睨み合う。トリィは真っ赤に染まったパイプ管を構え、 化け物は半ば溶解した顔で、トリィを絞め殺そうと迫っていく。

 オリザに出来ることは、男の的を、こちらへ引きつけておくことしかない。

 オリザは、レインが彼女を助ける為に引っ張ってきたストレッチャーの影に、飛び込んだ。ストレッチャーを盾にし、 銃弾をやり過ごす。発砲音が止んで頭を出すと、男は、素早く弾倉を替えようとしている。しかし、そうはさせない。 男に向けて、ストレッチャーを思い切り蹴った。

「うわっ!」

 男は咄嗟に避けようとしたが、間に合わなかった。ストレッチャーに激突され、拍子に、拳銃が手から飛ぶ。 即座に、足元のガラス片を拾って走り出したオリザは、ストレッチャーに飛び蹴りを喰らわせ、 男を、ストレッチャーと壁の間に挟んだ。

--------------------------------------------------
[1067]



/ / top
inserted by FC2 system