そのままストレッチャーに飛び乗り、オリザは、男の頚動脈を、ガラスの破片で切り裂いた。

 鮮血が、噴水のように噴き出す。常人ならば、即死だろう。しかし、勢いよく噴き出した血は、二、三秒で、 再び噴水のようにぴたりと止まってしまった。オリザの目の前で、切り口は見る見る塞がり、 新たな青の斑となる。

 痛みに顔が歪むのも、一瞬だった。すぐさま軍人の顔に戻ると、男はこちらの腕を掴み、捻り上げようとしてきた。
 寸でのところでそれを避けたオリザは、ガラスの破片を握ったまま、ストレッチャーから転がり落ちた。

 軽くなったストレッチャーを蹴り飛ばし、自由の身になった男は、拳銃を拾いに走る。 させじとオリザは男の足を掴み、今度は腱を狙う。がくり、と男は膝を折るも、 その血はやはり、すぐに止まってしまう。顎を蹴り飛ばされ、オリザは折れた歯を吐きながら、床を転がる。 さらにその喉を、男が踏みつけた。

「あがっ!」

 オリザは呻き、反射的に男の足を掴んだが、拷問で折れた片腕に、ガラス片で血まみれになった掌に、もうこれ以上力が入らない。 容赦なく力が加えられてくるのを、何とか押し留めるので、精一杯だ。

 そこへ、レインが走ってきた。
 それを見た男は、オリザの喉を踏みつけたまま、両手で、腰に下げた一対の鞘から直刀のサーベルを引き抜いた。

 細く、薄く、長い刃が空に閃めき、レインの鼻先に一筋の赤い線をつける。

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