わけが分からぬまま、一緒に後退していくと、少し前に通り過ぎた場所に、上方へ昇れる通路があった。ようやくミアンは思い出した。 かなり狭く、タキオの体が入らなかった為、見送った通路だ。ミアンとレインだけなら、通れる。

 説明も何もないまま、レインは狭い通路を昇り始めた。ミアンも後に続く。通風孔に積もった埃と泥で二人の体はすっかり汚れ、 擦り剥けた掌と膝には強烈な痛みが走ったが、立ち止まる時間はなかった。

 黙々と狭い通路を登り、少なくとも一階分くらいは上がっただろうか。 やがて再び、平行な場所に出た。静かで、人の気配はなかった。二人は息を切らしながら、その場に座り込んだ。

『大丈夫か。安全そうな場所にいるか』

 無線機から、声がした。ミアンは周囲を見回した。
 周囲は相変わらず、暗く、臭い。今にもその闇の奥から、爆発しそうな己の鼓動音を聞きつけ、先のような化け物が襲いかかってくるような気がしてならない。

 だが、ひとまずは、安全そうだった。声を震わせながら、大丈夫です、と答えると、続けて無線機は質問をしてきた。 そして状況が把握出来ると、悪態をついた。

『くそっ、最悪だ。タキオのことは、心配しなくていい。あいつに敵う奴は、人間の中にはいねーから。 問題は、お前らと俺たちだ』

膝の傷に唾をつけながら、レインがじっとこちらを見てくる。

『お前らを助けに行ってやりたいのは山々だが、お前らの正確な居場所も分からないし、塔からの脱出方法も見つかってない。 俺たち自身も、いつ秘密警察に見つかってもおかしくない状況だ。
 お前ら、何とかして自力で飛行場まで来い』

 そんな、とミアンは呟いた。

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