「無理です、そんな……。後どのくらい昇ればいいのかも分からないし、そもそも通風孔が飛行場まで続いているのかも 分からないのに……」

 喉が痛い。一言、一言、喋る度に、血と気力が抜けていくようだ。

「……それに、途中で秘密警察官に見つかったら? 飛行場にだって、秘密警察官が沢山いるんでしょう?  あなたたちの乗ってきた飛行機はそこで爆発炎上してるし、奪って逃げる予定だった飛行機は、全部、 塔の周りを旋回しているんでしょう……?」

 タキオがくれたジャンパーを羽織り、どれだけ固く体を抱き締めても、震えは止まらない。 血が滲む掌と膝と全身の痛みは、磨耗しきった精神の呻きは、収まらない。


 怖い。


『……それなら別に、そこでじっとしていたって良いが、少なくとも俺は、助けには行かないぜ』

 そう言って、無線は切れた。

 沈黙した無線機を、ミアンは力無く膝の上に落とした。

 静寂が訪れれば、必死に目指していた道の先が、ただの蜃気楼だったと気づいてしまう。 遠い扉から漏れていた光が、いつの間にか消え、無限の闇が周囲に広がっていることを知る。

 もう前に立ってくれる者もいない。このまま進んでいっても、敵に見つかるだけだ。何処にも出口など無く、永遠に 塔を彷徨うだけだ。

 ……ノキヤとだって、再会出来る、わけが。

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