オリザは黙って、死体を見つめた。 膝をつき、その頭を、掻き抱きたかった。己の首を絞めたその手を、手に取りたかった。しかしそれをしてしまえば、 二度と立ち上がれなくなる。 そのまま、己の息の根まで止まってしまう。だから、二人の死体を見つめたまま、立ち続けるしかない。 浅黒く大きな左手を。それより若干小さく、白い右手を。足を、胴体を、両腕を。 共に戦い、彼女が守ってやれなかった、仲間を。 ただひたすらに死体を見つめ、立ち続けていると、男を鎖で拘束する作業を終え、トリィがやってきた。 何も言わず、ただ荒い呼吸をしながら、側の壁によりかかる。 「……背中の止血をした方が良い」 ぼんやりと口を動かすと、トリィは首を振った。 「いらない。かすっただけだ」 沈黙が、辺りに満ちる。ぬばたまのような、どろりと鼻口を塞ぐような沈黙が。 サイレンが鳴り続けている。振動と共に、何処か遠くの方から、爆音が聞こえてくる。 「……いつまで此処に居るつもりだ。リーダー・オリザ。まさか、此処で死ぬって言うんじゃないだろうな」 オリザは目を閉じた。 たかだか一対の目蓋は、城門の扉のように重かった。そして閉じた後も、暗い草原には、 死の残骸が永遠に横たわり続けていた。 -------------------------------------------------- |