「行くぞ」

 と言って、オリザは目を開けた。死の残骸から、目を逸らして。

 踵を返しながら、レインを手招いた。「連れていくのかよ」とトリィが呟く。その言葉を無視して腰を屈め、 床から、斑男の落とした拳銃と替えの弾倉を拾い上げる。

 オリザたちが動き出したのを見て、レインはこちらへやってきた。が、床に座り込んだままのミアンの側まで来ると、立ち止まった。

 歯で器用に弾を装填していたオリザは、顔を上げてミアンを見た。少女は、崩れ落ちた場所から一歩も動かないまま、 人形のように俯いていた。その足元では、彼女の懐から落ちた無線機が、何やら喧しく騒いでいる。

「お前はどうするんだよ」

 とトリィが声をかけた。

 ミアンは、本当に死んでしまったのかと思う程、長いこと、微動だにしなかった。
 そしてようやく、俯いたまま、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

「何処へ行けばいいの? 逃げたって、死ぬまで追われ続ける。家族も同罪に問われる。ノキヤちゃんもいない」

 そうだ。ノキヤは死んだ。エマオもラキも。

 オリザは少女を見つめる。

 私が守ってやれなかったから、死んだ。私が、殺した。
 そしてこの少女も。


 ひび割れた声が、虚空に木霊する。

「私は、もういい」

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