こいつ、ヤバい。

 そう思うのと同時に、背後に気配を感じた。タキオは振り返った。が、一足遅かった。

 秘密警察の制服を纏った長髪の男が、いつの間にか背後に立ち、両腕を振るっていた。両腕に握っているのは銃ではない。 手すら無い。
 肘から先に生えているのは、巨大なザリガニ状の鋏だ。

 咄嗟にタキオは両腕を上げ、首を切断しようとしていた一対の鋏から、首を守った。左右から近づいていた刃は、 寸でのところで、鋼の両腕に防がれる。しかし、首から下が、がら空きだ。

 タキオが両腕を左右に開いて鋏を外すより早く、鋏男はもう片方の手で、タキオの腰を挟んだ。無論、 男がどれだけ力を込めても、刃がどれだけ鋭くても、特殊合金の使鎧はびくともしない。 が、男がそのまま鋏に力を込めると、タキオの体が持ち上がった。

「よし、そのままにしてろ!」

 そこへ、涎を垂らしながら、ガロウが突っ込んでくる。
 全体の動作は大きいが、その鉤爪の先が狙うは、こちらの額、一点のみ。

 タキオは舌打ちすると、思い切り頭を逸らし、両腕を鋏の間から引き抜いた。喉仏のすぐ上で、鋏が恐ろしい音を立てて、閉まる。 ガロウの鉤爪が、一秒前まで額があった空間を裂く。

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