そのまま思い切り上半身を振ると、床に両手をつき、逆立ちの要領で無理矢理下半身をもう一方の鋏から引き抜いた。

 凄まじい力に鋏は軋み、引き摺られるように鋏男はよろめく。すかさずガロウが二撃目にかかる。身を低くして鋏男の脇の下を掻い潜り、 タキオの顔面目がけて蹴りを入れる。寸でのところでタキオはそれをかわす。そのままガロウにこちらの行く手を塞がれ、 タキオは、ガロウと鋏男に挟まれる形になる。

 二人は巧みに連携し、こちらの首を獲りにかかってきた。ジャキン、ジャキン、と開いては閉まり、開いては閉まる鋏が タキオの動きを邪魔し、ガロウの拳が、蹴りが、鉤爪が、次々と目にも留まらぬ速さでタキオの体に襲いかかる。

「おいおいどうした? 鼠みたいにちょこまか動きやがって!」

 ガロウの鉤爪がぶつかる度、耳をつんざくような金属音が響く。頬に、こめかみに、新たな血の線が増える。 コンクリートの壁に、床にヒビが入る。
 急速なステップで鋏をかわしながら、防戦一方でいると、ガロウの大口が開いた。

「あれだけの腕力がありゃ、俺たちを木っ端微塵にするのも容易いだろうが! 来いよ! やれ!」

 じゃあ何もせずにそこに突っ立ってろよ、とタキオは思わず言いそうになった。
 しかしガロウが本当に言わんとしていることは、分かっていた。

 反撃する隙が無いわけではない。その隙に反撃していないわけではない。 しかし、新たな使鎧になってから積み重ねた力の制御訓練は、エイト・フィールドや各国の秘密警察官など、 少なくとも人間の範疇に収まる戦力を想定していた。ガロウや鋏男たち生体兵部が、その範疇を大きく超えてしまっている為、 その力が通用しないのだ。

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