しかしだからと言って、全力で拳を叩き込むわけにもいかない。そうすれば一発で決着が着くのは分かっているが、 そんなことをすれば攻撃の余波で、『塔』が崩壊しかねない。 『塔』が崩壊すればガロウ含め秘密警察官たちを一掃出来るが、当然、レインたちの命もない。

 力をどの程度出すべきか迷っている。それを鋭く見抜き、ガロウは挑発してくる。

 愚鈍そうに見えて、こと戦闘に関しては驚異的な能力を持っている。正直、今回ばかりは楽観視し過ぎた。 タキオはそう思ったが、反省している余裕はない。

 鋏の切っ先が、頬をかすめる。ガロウの鉤爪が、眼球の上数ミリを振り抜く。
 何とかガロウさえ足止め出来れば。
 ガロウの繰り出してきた拳に、己の拳をぶつけながら、タキオは奥歯を噛む。
 ガロウさえ足止め出来れば、この場を脱出出来るのだが。

 と、その時弾丸が、タキオの胸に当たった。三人は同時に、弾丸の飛んできた方向を見た。

「馬鹿野郎! だから邪魔すんなって…… あっ」

 ガロウの咆哮は、途中で途切れた。
 螺旋階段の方から、小部隊を引き連れて現れたのは、髪を七三分けに撫でつけ、胸に副長官の徽章を付けた男だった。

「そのまま押し込め、比留(ヒル)」

 銃を撃つ手を止めず、副長官は命じた。

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