要塞外壁から、十メートル以上離れた空中。周囲にあるのは零下の空気と、落下してくる瓦礫のみ。 どう足掻いても、何かに掴まることは出来ない。このままでは、遥か下方の雪雲を突き抜け、地上へ落下するしかない。


 死ぬかも知れない。


 が、その時、視界の端、粉塵の向こうに、不自然なほどこちらに接近して飛ぶ古い爆撃機が、映った。

 タキオはほとんど反射的に、腹に力を込めた。空中で反転して足を下にし、瓦礫を蹴った。 砕けたコンクリート片を、剥がれ落ちた装甲を、蹴った。蹴った。蹴った。爆撃機に向かって。

 瓦礫の雨を抜け、粉塵を抜け、爆撃機の爆音と機体と照明が、瞬く間に近づいてくる。まるで、深海の鯨のように。

 最後の一蹴り、息を止めると、目の前に近づいた爆撃機の背中に、飛び移った。

 足を滑らせ、機体に叩きつけられ、衝撃が全身を襲う。機体の上を転がりながら、無我夢中で、十本の指に力を込める。 片翼に体が半分飛び出したところで、指の先が、僅かに装甲の継ぎ目を捉える。そのまま装甲を剥がさんばかりの勢いで、必死にしがみつく。

 バン! と目の前の天測窓が開いた。くそ、とタキオは顔を歪め、敵の攻撃に備えた。しかし、現れたのは、 敵ではなかった。

「掴まれ!」

 サングラスが吹き飛ばされそうになるのも構わず、天測窓から上半身を出したのは、オズマだった。 タキオは迷わず、その手を掴んだ。

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