「……あなた、あの時、アネサ先生と戦っていた人ですね」

 『フォギィ・ブルー』の霧の中から聞こえてくるような声で、ミアンは言った。
 その声に、相手はゆっくりと顔を上げた。

 顔は無残に腫れ上がり、変色し、まだ新しい傷口に血が固まりかけている。鎖骨や左腕は、外から見ても分かる形で、 折れている。それでもその、意思の強そうな瞳、鋭い眼差しは、忘れるわけがない。

 ノキヤがリウに腹を貫かれた時、店内にいて、アネサ寮監と戦っていた女だ。

「『東方三賢人』ですね」

 いつの間にか、ミアンは拳を強く握り、体を強張らせていた。折れた腕一本で、ほとんど全体重を支えるのは、どんなに苦痛だろう。 足の爪を剥がされるのは、如何ばかりの激痛だろう。想像するだけで、こちらまで呼吸が苦しくなり、早く彼女を解放してあげなくちゃ、 と衝動に突き動かされる。

 しかし、その前に、やるべきことがある。

「ノキヤちゃんが今何処に居るか、知りませんか」

 女は弱々しく、首を振った。

「あなたも、この中では見かけていないんですね?」

 重ねて尋ねると、血で真っ黒になった唇が、僅かに開く。

「ノキヤは、死んだ」

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