大荷物と満悦の気持ちを抱え、レインたちは市場を出ると、線路の近くまで戻った。大きな広告看板が作る影の中にしゃがみ、 それぞれの鞄に荷物を分配する作業に、しばらく没頭した。それが済むと、ピーナッツを齧りながら、 列車が来るのを待った。

 イオキがピーナッツを撒くので、野良猫や鳩が寄ってきた。猫を撫でながら、タキオが買った新聞のクロスワードを、 皆で考えた。

「砂だけが変わらないわ」

 クロスワードの合間に、アスファルトの上を薄く覆った砂を指でなぞりながら、ロミが呟くのを、レインは聞いた。
 ピーナッツを食べる手を止め、彼女の方を見たが、その横顔は更紗模様のスカーフに隠され、見えなかった。

「ここは、ひょっとして、砂漠の向こうに隠れていた別の国なんじゃないかしら」

 分かった、答えは―― と、タキオが声を上げかけた。そのとき、道の向こう側、切符のことを尋ねた売店から、中年の女が、 何やら叫びながら飛び出してきた。

「あんたたち、何やってんだい! 列車が来ちまうよ!」

 揃ってきょとんとする四人に、更に女は怒鳴る。

「何をぼんやりしてるんだい! 次のは急行だから、この駅には止まらないんだ! 早く腰を上げな!」

「はあ?」

 とタキオが声を上げるのと同時に、長い汽笛が聞こえた。

 レインたちが振り向くと、真っ黒な列車が、カーブを曲がり、こちらの視界に入ってくるところだった。速度を落とす気配は、無い。

「飛び乗るんだよ!」

--------------------------------------------------
[1255]



/ / top
inserted by FC2 system