その甘い響きは、発したミト自身を、驚かせた。
 しかし同時に、紛れもない本心である、と悟らせた。

 それは、コンが生まれた時には感じなかった、気持ちだった。女王の腹の中で、まだ形にもなっていない我が子のことを考えただけで、 胸が高鳴り、締め付けられた。今すぐ女王の胎内に手を突っ込み、その子を掬い上げたい、と、そんな衝動に駆られたのだ。

 突如胸に響き渡った甘美なさざ波に、ミトが揺られていると、女王は言った。

『いつまでも、傍に? 本能のままに人間を喰らうその子と、そうでないあなたの違いに気づかせず、 永遠に穏やかな海の底に、二人で?
 そんなの無理よ。美しい花はやがて枯れ、天の星すらもいつかは死ぬ。 何故そんな、悲劇の種を育てるようなことをするの? あなたにとってもその子にとっても致命傷となるであろう、悲劇の種を』

 そこに含まれた棘を感じ取り、ミトは女王を見た。
 彼女は、ミトを喰わなかったが故の飢餓感に耐えようと、眉を顰め、彼の香りが残る髪を噛んでいた。
 知らず知らずのうちに、ミトは、哀しげな声音になった。

『そうだね。虚しい夢だ』

 そう言うと、女王ははっきりと顔を歪ませ、吐き捨てた。

『私、この子が嫌い』

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