「知らない男の人にもらったの」

「そんな知らない奴から簡単にもらうなよ……」

 イオキとタキオが会話する間も、レインは漆黒の瞳を丸くし、ロミの表情を注視していた。

「凧か。ガキの頃、親父と揚げたことがあるな」

 そう言ってタキオは、竹ひごに黄色いビニールを張った凧を、吟味した。

「折角だし、揚げてみるか? なかなか見栄えのする凧だし、風も、こんな良い風が吹いているしな」

 そう言うと、タキオはジャンパーのポケットに両手を突っ込み、背を丸めるようにして、丘を登り始めた。ロミも後に続く。 レインとイオキも立ち上がり、タキオを追いかける。

 タキオは、天辺に一本だけ生えた木の下に陣取った。イオキに糸巻を握らせ、レインに凧を持たせた。

 走れ! と言われ、レインは不器用に走り出した。強い向かい風に煽られ、よろめく。拍子に、凧が手から離れるが、 それは高く揚がらず、地表で独楽のように回る。イオキは糸巻きを精一杯高く持ち上げているが、そこから伸びる糸には、 まるで元気がない。

 拾い上げた凧から砂を払い落し、何回か挑戦してみたが、駄目だった。見ている分には簡単そうに見えたが、 実際遊んでみると、なかなかどうして難しい物だ。

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