オズマがどこかから調達してきた古い漁船は、北へ北へ、赤道に向かって進んでいた。

 船にはオズマとダイ、さらに数名、エイト・フィールドの人間が乗っている。上着もネクタイもとうに脱ぎ捨て、 本物の漁師さながら、船を動かしている。今にも口笛を鳴らし、舟歌を歌い出しそうな雰囲気だが――  実際に歌いかける者もいるのだが―― そうはさせない強大な圧力が、彼らを支配している。

 圧力を放っているのは、見事な肢体をメイド服に包み、一番良い椅子で足を組んだ、銀髪赤眼の美女だ。 海から救い上げられた彼女は、船長室を占拠した後、滅多に出てこない。 一時期は、その、印象的な胸と長い足をもう一度拝もうと、船長室の周囲が騒然となった。 しかし、一度彼女に睨まれ、罵倒された後は、もう、男たちは、石化の呪いを恐れる奴隷の如くである。

 いよいよ計画の最終段階に到達したタキオの緊張感も、無理矢理置き去りにされたロミの憤りも、圧殺された感が、あった。

 しかし、消えて無くなったわけではない。
 むしろ抑圧された感情は、内部で燻り、焦げた臭いが濃くなるばかりだ。

 キリエと共に船に乗り込んで一日ばかりは、怒りに任せ、だんまりを決め込んでいたのだが、 とうとう我慢ならなくなった。

 ロミは、丸まっていたハンモックから、勢いをつけて起き上がった。

--------------------------------------------------
[1409]



/ / top
inserted by FC2 system