放っておいてくれれば良いものを、オズマは、手摺に捕まったへっぴり腰のまま、こちらに話しかけてきた。

「まあ、その、何だ……。今さら船は戻せない。あの美人女中が、このまま進めと睨みを利かせているしな。 ここまで来れば、一蓮托生だ。仲良くやろうぜ」

 苦虫を噛み潰したような顔で、タキオは溜め息をつくと、ロミの腕を離した。

 ロミは安全な場所まで―― 船内へ下りる階段へ走ると、手摺を掴み、立ち止まった。

 乱れた髪のかかる頬に、雨が落ちる。一滴、また一滴。
 空はすっかり暗くなり、海はうねり、どこか遠くで雷鳴が聞こえる。

「不味い天気になってきたな」

 と、天を仰ぎ、タキオは呟いた。

 オズマの部下たちが、悪天候に備え、甲板で動き始める。彼らを手伝う為、タキオも歩き出した。 ロミの側を通ると、機械に取り換えられた硬い体が、瞬く間に激しさを増していく雨に打たれる音が、聞こえた。

「危ないから、中に入っていろ」

 と、低い声も。

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