ロミは、真っ黒になった空を見上げた。暗い雲の奥から、大粒の雨が、玩具の弾丸のように降り注ぐ。
獰猛な風と雨が、真っ赤な髪を、容赦なく嬲っていく。 彼らの船を、沈めようとするように。 ロミは目蓋を閉じた。 暗い目蓋の裏に、タキオが映った。レインが映った。 レインとの別れの場面を、思い出した。抱擁と挨拶。とりたてて特別なこともない、ありふれた別離の風景。 けれど、あの骨ばった体を抱きしめた瞬間、獣のような髪に頬を触れた瞬間、途方もない寂しさと共に、 己は予感したのではなかったか。 もう二度と、会えないかも知れないこと―― 否、もう二度と会わない、覚悟を決めなくてはならないことを。 「私、タキオと一緒に行く、って決めたの!」 と、ロミは振り向き、雨の向こうへ、叫んだ。 「――最後まで!」 視界も煙る雨の向こうで、懐かしい影のように目蓋に馴染んだ姿が、動きを止める。 微かに肩をすくめ、大きく、こちらへ手を振った。 それを認めると、ロミは船内へ駆け下りた。 本当に、最後まで一緒に行けるのか―― その覚悟が、本当に出来ているのか――? 叩きつけてくる雨音に耳を貸さず、それ以上言葉にならない思いが、炎となって自身を焼くのに、身を捩りながら。 -------------------------------------------------- |