『僕も』

 そう言って、ミトの胸に、顔を埋めた。


 ――それは、何と幸福なひと時だっただろう。


 ――幸福な、夢だっただろう!



「領主様、到着いたします」

 ミトは、目を開けた。
 永遠とも一瞬ともつかぬ夢幻は、儚く過ぎ去った。

 人間よりずっと鋭敏な感覚を持つ彼の体は、随分前から、船が港に近づきつつあること、泊まる為に速度を落とし始めたことを、 感じ取っていた。
 だから、護衛が呼びに来るまでもなく、目覚めていた。目を瞑っていたのは、死ぬ直前に見ると言う走馬灯の如き夢を、 少しでも長く味わっていたかったからだ……

 こんな夢を見るのは、これが最後だろう、と言う予感と共に。

「ありがとう」

 と、ミトは護衛に微笑み、下がるよう促した。

 身を横たえていた寝台から起き上がり、衣服の乱れを直しながら、己の胸に湧いてくる苛立ちを、宥めようとする。 夢を破った護衛、船を操る者たち、港で騒ぐ人々に対する、抑えようのない苛立ちを。

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