名実芥と化し、流砂に呑み込まれていく町の中から飛び出したミトは、空中で反転した。 崩れ落ちた町の更に上空何百メートルという場所に、天を二分するように、長く真っ直ぐな一本の橋が掛かっている。
 その裏に、足の指を突き刺し、立った。天地逆さに。 美しい黒髪が、赤い流砂に揺らぐ。その頭を、首の断面に置くと、瞬きする。

 崩れ落ちた町の周辺には、数キロばかり、何もなかった。頭を巡らすと、橋の遥か先、別の遺跡に、逃げおおせたムジカが立っていた。

「本当に、俺を殺すつもりなのか」

 焦点の定まらない瞳で、うわ言のように、ムジカが呟いた。

 何を今更、とミトは答えた。

「君だって、僕を殺すつもりだろう」

 そのまま天地逆さに、橋の裏側を、ゆっくりと歩いていく。風が気持ち良い。遺跡が流砂に呑まれていく音に、鳥の歌が重なる。 足の下では、太陽が明るく輝いている。

「ただ、殺し方が分からないだけで」

 急に分厚い雲がかかり、太陽を遮る。周囲が翳る。

 狂った人喰鬼め! と、ムジカが呻く。

 ミトは橋から飛び降りた。

 逃げようとするムジカの首筋を押さえつけ、衝動のまま、大きく口を開けた。

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